2006/11/26

「慣れ」と「作業」が医療ミスを招く。

 私自身もヒヤッとした経験をしたことがあります。
妻が旅立った後ずっと胃の調子がおかしく、いつも胃がもたれているようで何を食べてもおいしくないし、食欲も湧いてこないので、胃カメラ検診を受けることにしました。

 喉にゼリー状の局部麻酔液とスプレーで麻酔をし、検診台に横になり再び喉にスプレー。
その時検査技師が「あまりすると不整脈が出るよ」と言っているのが聞こえました。
その後、「眠くなる注射をしますね」と言われ、静脈に注射針を刺されたところで、私の意識はプッツリと途切れました。

 目覚めたのは1時間50分後。別の部屋の仮眠ベッドの上でした。
ところが、その間のことを何一つ覚えてないのです。
注射針を抜かれたことも、胃カメラを飲んだことも、部屋を移動したことも。

 目覚めてから、「麻酔が効きすぎたのではないか。全く何も覚えてない」と医師に訴えたところ、「麻酔ではなく眠くなる注射です」と言われたが、どちらであれ意識を失っていた(記憶が途切れていた)のは恐ろしいと思いました。
もし、何かミスがあっても、何も分からないからです。

 医師の方も患者の反応を見ながら検診する方が事故に繋がらないのではないでしょうか。
1日に何人も、それも来る日も来る日も同じようなことをやっていると、いつしか流れ作業のように工程をこなすようになってきます。
これはどの仕事でも同じです。

 ですが、医師が相手にしているのは生身の人間であり、人の生命です。
そこには絶対「慣れ」は許されるものではないはずですが、いつしか「慣れ」で「作業」を行いだします。
それが医療事故を招くと思います。

 私が社会人になって間もなくの頃、こんな話を教えられました。
ある時、高い木に登っている人がいました。
 下では皆がハラハラしながら見守り、「大丈夫か」「気を付けろよ」などと口々に叫んでいました。やがてその男はあと1m少々で地上というところまで降りてきました。
 すると、それまで黙って見ていた木登りの名人が、いきなり「おい、危ないぞ。注意して降りろよ」と声を掛けたのです。

 それを見ていた見物人の1人が「あなたはいままであんなに高いところに登っている時に平気な顔をしていて、もう地に足が着くか着かないところで、注意しろと声を掛けるのはなぜだ」と尋ねました。
すると名人曰く。
「高いところはこちらから一々言わなくても、本人も必死だから注意する。ところが、あと少しの所に来ると、やれやれと気が緩む。そういう時が一番怪我をしやすい」

 大事故を起こすたびに「初歩的なミスで」と謝っているが、ミスはそういうところで起きるものだし、基本を守らず、「慣れ」の「作業」をするから起きるので、その認識がない限り、事故はなくならない。
 いずれにしろ、私は完全に眠らされるのは非常に怖いと思いました。